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東京地方裁判所 昭和58年(行ウ)161号 判決

原告 原輝恵 外三名

被告 東京都目黒区長

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(原告原輝恵及び原告志甫菊枝)

1 被告は、別表1記載の菅刈、東山、田道、不動、上目黒、五本木、月光原、向原、碑、大岡山東、大岡山西、自由が丘及び東根の住区住民会議に対し、同表委託事業欄記載の委託事業(ただし、※印に対応するものを除く。)につき、委託料の支出を行つてはならない。

(原告阿部芳子及び原告柴田紀子)

2 被告は、別表1記載の住区住民会議に対し、同表補助事業欄記載の補助事業(ただし、※印に対応するものを除く。)につき、補助金の交付をしてはならない。

(原告ら)

3 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは東京都目黒区(以下、単に「区」という。)の住民であり、被告は目黒区長の職にある者である。

2  目黒区内の住区住民会議は、区の住民の第一次生活圏域である小学校通学区域を基礎として区内を二二の区域に分けた各「住区」に一つずつ設立されたとする組織であり、その住区住民会議名及び設立年月日は別表1記載のとおりである(同表記載の住区住民会議を「本件各住区住民会議」と総称する。)。

3  被告は、別表1記載の菅刈、東山、田道、不動、上目黒、五本木、月光原、向原、碑、大岡山東、大岡山西、自由が丘及び東根の住区住民会議に対し、同表記載の委託事業(ただし、※印に対応するものを除く。)を委託し、昭和六〇年度については、別表2記載のとおり、委託料(公金)を支出した。

4  被告は、本件各住区住民会議に対し、別表1記載の補助事業(ただし、※印に対応するものを除く。)を補助し、昭和六〇年度については、別表2記載のとおり、補助金(公金)を交付した。なお、八雲住区住民会議に対する補助金の交付は、昭和六一年度からである。

5  区が昭和六〇年一〇月に策定した「東京都目黒区基本計画・第二次総合十か年計画」によれば、昭和六二年度ないし同七〇年度においても、本件各住区住民会議に対する右委託事業及び補助事業の実施が計画されており、被告が、右各年度において、従前どおり、右各事業につき前記の委託料及び補助金(以下、両者を併せて「本件公金」という。)を支出することは確実である。

6  しかしながら、被告の本件公金の支出は、次のとおり、違法である。

(一) 本件各住区住民会議は、それぞれ規約を有するが、その規約中に構成員に関する規定を置いているのは、烏森及び自由が丘の住区住民会議だけである。しかも、右両住区住民会議の右規定も、烏森住区住民会議のそれは、「住民会議は、烏森小学校通学区域内に居住する住民および働く人びと……をもつて組織する。」、自由が丘住区住民会議のそれは、「この会は、東京都目黒区自由が丘住区……内に住所、自営の店舗またはこれに準ずる生活の本拠をもつ者……をもつて組織する。」というものであつて、個々の住民の意思にかかわりなく、地域内に居住するすべての者又は一定資格を有するすべての者を、当然にその構成員とすると読める規定となつている。

しかし、住民らについてその同意を得ることなしに、これをすべて構成員とする規定は、不当かつ不適当なものであつて、構成員につき全く規定がないというべきか、又は無限定であるというべきかである。

(二) 右(一)の両住区住民会議以外の住区住民会議のうち、多くのものは、その規約中の総会に関する規定の中に「総会は成年に達した全住民をもつて構成する。」などといつた趣旨の規定を置いているに過ぎず、右のような規定すら置いていないものもある。

右の総会に関する規定では、住区住民会議自体の構成員は明らかではなく、仮に右規定をもつて構成員を住民ら全員としているとみられるというのであれば、右(一)に述べたと同様、右規定は不当かつ不適当なものである。

また、右の総会に関する規定は、総会の成立に関する定足数の定めやその議決に関する定めを伴つておらず、総会の構成員に関する規定としてみても全く無意味、無価値であるというべきであるから、右の総会に関する規定をもつて、住区住民会議の構成員の規定に代えることはできるはずがない。

なお、規約中に構成員に関する規定もなく、総会の構成員に関する規定すらない住区住民会議については、何人をその構成員としているかが不明なことはいうまでもない。

(三) 更に、実際問題として、本件各住区住民会議は、その地域住民らがその構成員となることについて、個々の住民らから同意を得るといつた措置もとつてはいない。

(四) 被告が前記3記載の住区住民会議に対して委託した事業、すなわち、住区会議室、談話コーナー等の区の施設の管理、使用料の収納その他の事務は、実際には、区の職員によつて行われている。

(五) 以上(一)ないし(四)のとおり、本件各住区住民会議は、構成員が不存在又は不明確な団体であり、また、その活動の実態からみても、実体のない名称だけのものであつて、法人格がないことはもとより、いわゆる法人格のない社団にも該当しないから、このような実体のない団体に対する本件公金の支出は違法である。

(六) また、別表1記載の公の施設(住区会議室、談話コーナー、老人いこいの家、児童館)の管理委託は、公共団体又は公共的団体に対してしなければならないが(地方自治法二四四条の二第三項)、本件各住区住民会議は、そもそも団体としての実体がないから、これに対する右の施設の管理委託は違法である。したがつて、被告が前記3記載の住区住民会議に対してする右の施設の管理委託に係る委託料の支出は違法である。

7  原告原輝恵、原告志甫菊枝は、昭和五八年九月八日付けで、被告の本件各住区住民会議に対する別表1記載の委託事業の委託及び右委託に係る公金の支出につき、原告阿部芳子及び原告柴田紀子は、同日付けで、被告の本件各住区住民会議に対する交通安全事業など各種事業の委託及び右委託に係る公金の支出につき(なお、昭和五九年度からは、右事業と同種の事業は補助事業となり、補助に係る公金が支出されることとなつた。)、いずれも違法であるとして、区監査委員に対し、住民監査請求をしたが、右監査委員は、同年一一月一日付けで、当該原告らに対し、それぞれ理由がない旨の監査結果を通知した。

8  よつて、原告らは、請求の趣旨1及び2のとおり、被告に対し、地方自治法二四二条の二第一項一号に基づき、本件公金の支出の差止めを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1ないし5、7の事実は認める。

2  同6の冒頭の主張は争う。同6(一)のうち、烏森及び自由が丘の住区住民会議の規約中に原告ら主張のとおりの構成員に関する規定があることは認め、主張は争う。同6(二)のうち、原告ら主張のような総会に関する規定を置く規約があること、総会に関する規定のうちに定足数の定めがない規約が存在することは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。同6(三)ないし(六)の事実は否認する。

3  同8は争う。

三  被告の主張

1  住区成立の経緯

(一) 区は、「明るい豊かな人間のまち」の実現を期し、昭和四六年二月、東京都目黒区基本計画(以下「旧基本計画」という。)を策定し、昭和六〇年を目途として区のあるべき姿を描いてその実現手段をまとめた。旧基本計画においては、都市基盤整備を重視し、合理的かつ人間的な都市の間取りとこれに付随する区域内の住区、地区などの生活圏域、オープンスペース、緑を中心とする自然環境等を確保することが課題とされ、これを具体化する施策の体系の一環として生活圏域(住区・地区)の整備が掲げられている。

すなわち、旧基本計画によれば、主として小学校児童の生活領域に相当し、近隣社会としてのまとまりを保持することが可能であるとともに、私用頻度の高いコミユニテイ施設を中心に構成される区域を第一次生活圏域としての単位住区とし、主として一般人の徒歩による生活行動の領域に相当し、買物、通学、レクリエーシヨンその他日常生活がその中で充足され、共通の地域的性格を保持して、単位住区相互間の連帯を可能にする区域を第二次生活圏域としての地区に生活区域を分けて相互の関連をはかりながら整備するものとし、暫定的に、単位住区を二二住区に、地区を五区画に設定した。

(二) 旧基本計画を推進していくうえで、被告は、昭和四七年六月、生活圏域の設定について区都市計画審議会にその具体的な方策について諮問し、昭和四八年五月に答申を受けた。右答申は、旧基本計画における生活圏域の区画設定の趣旨及び二二住区五地区の具体的な設定を是認しつつも、個々の区域の規模・形状等の特性を考慮して、住区の複合化や再編成について、また、施設計画を中心にした地区のレベルアツプについて示唆している。同年一一月、区長期計画推進会議は、これを受けて調査研究を重ね、而後の生活圏域関連施策の基本方針を「生活圏域整備計画書」にまとめ、この計画は、昭和四九年四月から実施されている。

(三) 区は、昭和五二年四月、旧基本計画を策定して以来、区民生活や区政をとりまく諸情勢が大きく変わつてきたことに鑑み、まちづくりの基本的考え方や方策を改定し、新たに東京都目黒区基本計画(以下「新基本計画」という。)を策定した。

新基本計画においては、生活圏域として二二住区五地区が設定されている点で旧基本計画と変わりはないが、条件が一層具体的になり、小学校の通学区域に相当する人口八〇〇〇人から二万人の範囲を標準として二二の住区を定め、各住区の区域を定めている。この住区を基礎に最大半径一五〇〇メートルの面積と人口五万人から七万人の範囲を標準として区の全域を五つの地区に区分し、それぞれの地区には、四ないし五の住区が包括されている。そして、住区に必要な施設として、小学校のほか、公園、児童遊園、保育所、学童保育クラブ、老人いこいの家、行政サービス拠点、住区集会所等が考慮されている。

また、新基本計画は、「住民参加によるコミユニテイの形成を通じてのまちづくり」を志向することを明確に打ちだしており、具体的には、各住区の住民及び町会、自治会、商店会等の自主的な団体のほか、PTA、婦人団体、青年団体、防犯、消防、交通安全、防災などの公共的団体や、老人クラブ、こども会などの目的をもつた組織、更には、民生委員や青少年委員、保護司等公的な役割を担う人々の集りがあげられている。

(四) 区は、新基本計画を策定する過程で昭和五一年一〇月一日、東京都目黒区立住区センターの設置および管理の基本に関する条例(同年条例三六号。以下「住区センター条例」という。)を制定し、その二条で住区を「日常生活に密着した基本的な区域であり、主として小学校児童の生活領域に相当し、近隣社会としてのまとまりを保持することが可能な区域」と、コミユニテイを「区民が日常生活の場を通して、その地域の共通の目標を持ち、自らの役割を認識し、連帯感に支えられて明るい豊かなまちづくりをめざすまとまりのある地域社会」とそれぞれ定義し、三条及び四条で、住区におけるコミユニテイの形成に資するために、「住区の区民が、相互に交流する場および区が住区の区民に対して行政サービスを提供する場」としての住区会議室及び「区が区民に対して提供する行政サービスの一部を行う事務室」としての住区サービスコーナー等の施設をもつて構成される住区センターを設置する規定を置いている。右規定に基づき、昭和六一年四月一日現在、別表1記載のとおり、一三の住区センター(一五施設)が設置されている。

また、住区センターに包容される施設について、区は、昭和五一年一〇月一日、東京都目黒区住区会議室条例(同年条例第三七号。以下「住区会議室条例」という。)を、同年一一月一五日、同条例施行規則(同年規則第五八号)、東京都目黒区住区サービスコーナー設置規則(同年規則第六〇号)及び東京都目黒区住区サービスコーナー処務規程(同年訓令甲第一一号。以下「処務規程」という。)をそれぞれ制定している。

2  住区住民会議成立の経緯

区は、コミユニテイ形成の主体が住民であることに留意し、住民が行政とともに考え、行動することを通して自治意識を醸成するという観点から、住区について住区住民会議の組織化を勧めているが、その組織化は、地域における自主的、自発的なコミユニテイ集団の形成であり、区が右組織化そのものに積極的に関与するということはない。住区住民会議が成立する一般的な手順は次のとおりであり、本件各住区住民会議は、このような手順で組織化され設立されたものである。

(一) 区は、住区住民会議の組織化について理解を求めるため、住区内の町会、自治会、商店会、PTA、婦人団体、青年団体、老人クラブ、こども会等の関係団体及び民生委員、青少年委員、保護司等の役割を担つている住民らに幅広く働きかけ、説明会を開催する。

(二) その後、住区内の住民の中から世話人が選任され、世話人が中心となつて世話人会及び準備会(以下「準備会等」という。)をつくり、住民会議の組織、規約、活動方針等を検討し、設立の準備を進める。その際、設立準備の一環として、住区住民会議が成立後すぐに活動できるように住区内の住民から実行委員、運営委員、理事、委員等(以下「実行委員等」という。)の候補者を推薦してもらうのであるが、右推薦の手順は、次のとおりである。

(1) 準備会等は、町会、自治会、商店会、PTA、婦人団体、青年団体、老人クラブ、子供会等の関係団体及び民生委員、青少年委員、保護司等の役割りを担つている住民に幅広く働きかけ、実行委員等の推薦を依頼する。

(2) 依頼を受けた各町会(当該住区の住民は、原則としていずれかの町会に属している。)は、役員会を開き、町会員に対し、口頭及び町会の広報等を通じて住区住民会議への参加を呼びかけ、実行委員等の候補者を募集する。

(3) 町会は、住民から推薦された候補者及び自ら個人参加を申し出た候補者を集約し、各候補者に実行委員等として住区住民会議に参加する意思があることを確認した後、会議を開いて町会として推薦する。

(4) 町会以外の関係団体も右に述べたところと同様に会議を開いて実行委員等の候補者を推薦する。

(5) 世話人の多くはそのまま実行委員等として推薦され、役員に就任している。この場合、世話人が右(1)ないし(4)の手続により改めて実行委員等の候補者として推薦されることもあるが、それ以外は世話人が当然に住民会議の実行委員等に就任することを前提として町会をはじめとした関係団体が世話人の選任をする際に、世話人として選任すると同時に、実行委員等としても推薦している。

(三) 住区住民会議の設立総会の開催日は、予めチラシ、掲示板等によつて住区内の住民に周知され、右設立総会には個人としての住民及び住区内の町会をはじめとした関係団体から百数十名の出席者があり、右総会において住区住民会議の規約、活動方針が承認され、実行委員等の選任が行われる。

推薦された実行委員等の候補者は右総会の指名により選任され、役員に就任することになる。

3  住区住民会議の活動状況

(一) 住区住民会議の活動は二つに区分することができる。一つは、区との間の委託契約に基づく別表1記載の委託事業の実施であり、他の一つは、規約に定める設置目的及び事業の各規定に則り、区から支出される補助金その他の収入金による別表1記載の補助事業の計画、実施である。

(二) 委託事業についてみると、住区住民会議は、委託契約及びそれに基づく仕様書に定められた内容の委託事務を処理している。すなわち、日曜日及び祝日の午前八時三〇分から午後一〇時まで、平日の午後四時三〇分から午後一〇時まで及び土曜日の午後〇時から午後一〇時までの間(ただし、上目黒住区住民会議のみは、日曜日及び祝日につき午前九時から、平日につき午後五時から及び土曜日につき午後〇時三〇分からである。)、住区住民会議の構成員が住区センターに赴き、委託された管理事務を次のような方法で処理している。

(1) 住区会議室の利用を承認したときは利用承認書を、住区会議室使用料を受領したときは領収書を、住区住民会議の代表者名で発行する。

(2) 使用料を領収したときは、区の指定した様式による払込書を住区住民会議の代表者名で作成して指定金融機関等に払い込み、また、収納金収入報告書を住区住民会議の代表者名で毎月作成し、翌月五日までに収入役に報告する。

(3) 毎日の管理事務が終了したときは管理日誌(又は業務日誌)を担当の構成員が作成し、管理した事務の内容について住区サービスコーナーの職員の確認を受ける。

(三) 住区住民会議は、規約に基づいて設置された住区住民会議の機関である各種の専門部会(一部の住区住民会議では、各種の実行委員会。以下この(三)においてこれを含めて「部会」、「〇〇部会」という。)が中心となつて分担した事業について補助事業を、次のような方法で計画、実施している。

(1) 青少年育成部会、交通部会、防災部会等の部会ごとに年間の事業計画をたて、住区住民会議の事業計画案としてまとめたものを毎年定例的に開催されている総会にかける。

(2) 総会で審議、決定された事業計画を受けて、各部会の役員が中心となつてそれぞれの事業について準備し、部会ごとに実施する。

(3) 右事業の計画を周知させるため、住区ニユース、パンフレツト、チラシ等を作成、発行し、家庭への配布、学校を通じての児童への配布及び区の掲示板に掲示すること等を行つている。

(4) 実施された事業は、次の年度に開催される総会に報告される。

(5) 住区住民会議が実施している具体的な事業の内容は、別表1記載のとおりであるが、主に、左記の点を目的とした公共的事業を実施している。

〈1〉 地域の生活環境の整備、改善を図る。

〈2〉 明るく住みよいまちづくりを推進する。

〈3〉 構成員の連帯意識を増進する。

〈4〉 構成員の福祉増進に役立つ。

4  本件各住区住民会議が実体を有していることについて

(一) 本件各住区住民会議は、当該住区内に居住する特定地域の住民により、自主的に当該住区内における生活環境の整備、改善を図るとともに、明るく住みよいまちづくりを推進することを目的として任意に結成された団体であり、いずれも、それぞれの規約の定めるもころにより、当該住区内に居住する住民及び関係団体等を構成員として設立総会により設立され、存続しているものであり、構成員の変更によつて消滅することはない。

(二) 本件各住区住民会議はそれぞれ規約を有し、右規約には、その役員として、代表者(会長、代表又は委員長がこれに当たる。)、運営及び担当任務に当たる者(副会長、書記、常任委員、実行委員、運営委員、常任理事、理事会がこれに当たる。以下「運営担当役員」という。)及び財産の管理、経理を司る者(会計、監事、監査等がこれに当たる。以下「会計役員」という。)が定められ、それぞれの役員の選出方法も定められている。すなわち、右規約の定めによれば、総会によつて実行委員等が指名され、その中から代表者、運営担当役員、会計役員が互選されることになつており、現に、右規定に則り、本件各住区住民会議の代表者をはじめ、その他の役員が選出されている。

(三) 本件各住区住民会議の有する規約には、次のとおり、設置すべき機関及びその運営に関する定めがあり、右規約に則つて総会及び運営委員会、実行委員会、理事会等の機関が置かれ、運営されている。

(1) 総会は、当該年度の事業計画、予算等の住区住民会議の運営に関する基本的事項を審議、決定する機関として規約に規定され、代表者の招集により規約に定められた時期に毎年一回は定例的に開催されており、右審議事項は、多数の出席者を得て過半数の原則により、出席者の過半数で決定されている。

(2) その他の機関も、それぞれの担任事務について審議、決定する機関として規約に規定され、代表者の招集により、必要の都度、開催されており、そこでも審議事項は出席者の過半数により決定されている。

(四) 本件各住区住民会議の構成員は、その規約によれば、各住区内の住民とされており、右住民は、その設立総会への参加及び実行委員等への就任により直接的に、また、実行委員等を推薦すること、又は、本件各住区住民会議が実施する事業活動であることの認識を持つて右活動に参加することにより間接的に、本件各住区住民会議に参加する意思を表明している。

仮に、本件各住区住民会議が右規約で定められたとおり当該住区内の住民によつて組織されているとはいえないとしても、その設立総会に参加し、参加意思を表明した当該住区内の相当数の住民(一〇〇名ないし二〇〇名)を構成員として組織されたものというべきである。

(五) 本件各住区住民会議は、総会及びその他の機関の決定したところに基づいて、当該住区の構成員の福祉を増進するため、前記3記載のとおり、別表1記載の各事業を自主的に行つている。

(六) 本件各住区住民会議は、諸事業の遂行に必要なカメラ、複写機、ハンドマイク等を財産として所有するとともに構成員からの拠出金、寄付金並びに区からの補助金及び委託料を収入としており、これらの財産及び収入金を管理するため、会計役員が規約に基づき財産の管理に当たつている。

(七) 本件各住区住民会議の昭和六〇年一二月三一日現在における、その事務所の所在地、規約の有無、構成員に関する規定の有無、代表者名等の詳細は別表3記載のとおりである。

(八) 以上のとおり、本件各住区住民会議は、いずれも、当該住区内に居住する住民及び関係団体を構成員としてその福祉増進のため各般の事業を営むことを目的として結成された任意団体であつて、代表者、運営担当役員、会計役員の選出、総会及びその他の機関の運営、財産及び収入金の管理、事業の内容等につき規約を有し、これに基づき存続し、活動しているのであるから、法人格のない社団としての実体を有しているものというべきである。

5  本件各住区住民会議への事務委託

(一) 区は、住区センターを構成する公の施設である住区会議室や老人いこいの家及び児童館の管理について、これをコミユニテイ形成の主体的役割を担う住区住民会議に委託することが右施設設置の目的を達成するうえで効果的であると判断し、右管理事務を、地方自治法二四四条の二第三項、住区センター条例五条二号、住区会議室条例一六条の定めに則り、請求原因3記載の住区住民会議に対し委託している。

更に、区は、地方自治法施行令一五八条一項一号及び東京都目黒区会計事務規則(昭和三九年規則五号。以下「会計事務規則」という。)四一条の規定に基づき、住区会議室使用料の収納事務を右各住区住民会議に委託している。

なお、住区サービスコーナーについては、住区センターの窓口に相当するので、区は区の職員を配置して処務規程に即した事務に従事させており、住区住民会議にその管理を委託していない。

(二) 公の施設の管理委託先は公共団体又は公共的団体でなければならないとされているが(地方自治法二四二条の二第三項)、右の公共的団体とは、公共的な活動を営む者である以上、法人であると否とを問わないとするのが行政実例である。本件各住区住民会議が公共的活動を行つていること、法人格のない社団とみるべき実体があることは前記のとおりであるから、本件各住区住民会議は右の公共的団体に該当する。

6  本件各住区住民会議への補助金の交付

(一) 区は、公益上必要がある場合、法人格を有しない団体に対しても、東京都目黒区補助金等交付規則(昭和四三年規則六号。以下「交付規則」という。)に基づき補助金を交付している。本件各住区住民会議も交付規則に基づき、区から別表1記載の補助事業について補助金の交付を受けている。

(二) 交付規則六条によれば、補助金等交付申請を行う場合には、所定の事項を記載した補助金等交付申請書を、所定の添付書類とともに、被告に対し、提出しなければならないとされている。右規定が要求している申請書の記載事項及び添付書類の内容からみると、補助金交付の対象となる団体は、〈1〉定款、規約等を備え、右規約に、目的、名称、事務所、資産に関する事項及び代表者の任免に関する事項が記載されていること、〈2〉現に事務所を有し、代表者が存在していること、〈3〉各構成員の生活活動から独立した社会活動をすることができる組織及び財政が確立していること、〈4〉自ら経理する会計機構を有することが要件として要求されていることが理解できる。しかるところ、本件各住区住民会議は、〈1〉規約を備え、現に名称、事務所、代表者及び会計機構を有していること、〈2〉規約の中で補助事業の目的、性格を明らかにしていること、〈3〉総会で前年度の収支決算及び翌年度の予算を審議決定し、財政及び予算の細部を明らかにしていること、〈4〉総会で翌年度の事業計画を審議決定し、補助事業の執行計画を明らかにしていること、〈5〉補助金等交付申請書でも、補助事業の執行計画を明らかにしていることから、補助金交付の対象となる団体としての実体を備えているものというべきである。

7  請求原因6(一)及び(二)について

本件各住区住民会議はそれぞれ規約を有し、右規約中に表現は異なるが住区内の住民をもつて構成員とする旨の規定があり、原告ら主張のように構成員に関する規定が全く存在しない規約及び不十分な規約はない。

仮に規約に構成員に関する規定がないとしても、前記のとおり、住民会議の設立総会に参加した者等の構成員によつて、団体としての管理、運営が行われている以上、本件各住区住民会議は、実体のある団体である。

本件各住区住民会議は、それぞれの規約中に議決に関する規定を置いている。すなわち、原町及び大岡山西の住区住民会議以外の本件各住区住民会議は、規約の中に「出席者の過半数をもつて決定する。」旨の規定を置いている。右の二つの住民会議は、このような直接的な規定は置いていないが、規約中に、「この規約に定めるもののほか、住民会議の運営に必要な事項は、常任委員会にはかつて会長が別に定める。」との規定があり、会長が、右規定に従つて、総会の度に、議決に関する事項を常任委員会に諮つて別途定めており、それによると、「出席者の過半数をもつて決定する。」とされている。したがつて、規約中に議決に関する規定がないとする原告らの主張は理由がない。

仮に、規約に定足数及び議決に関する規定がないとしても、そのことをもつて、本件各住区住民会議が実体のない団体であるとはいえない。すなわち、本件各住区住民会議の総会は一〇〇名前後の出席者があり、多いときは一二〇名位になるから、民法上の社団法人の定款に定足数及び議決に関する規定がない場合の総会の運営に準じて議事を開き、議決をすることになるだけであつて、そのことにより、団体としての実体を具備していないということにはならない。

8  請求原因6(三)について

本件各住区住民会議の構成員である各住区住内の住民が、直接的に又は間接的に、本件各住区住民会議への参加意思を表明していることは、前話4の(四)記載のとおりである。

9  請求原因6(四)について

本件各住区住民会議は、前記3の(二)記載のとおり、委託された事務については、役員及び自主的に参加する住民を住区センターに赴かせ、自己の名により、それを処理しているのであつて、右事務が区の職員により行われているということはない。

ただ、前記5の(一)記載のとおり、住区サービスコーナーについては区の職員を配置しており、右職員が住区住民会議等住民活動の育成援助に関する事務を分掌しているところから(処務規程一条)、委託事務を支援するということはある。しかし、この場合でも、委託事務を実施する主体は住区住民会議であつて、区職員は住区住民会議を援助する立場から事務を処理しているにすぎない。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1の事実は認める。

2  同2、3の事実は否認し、主張は争う。

3  同4の事実は否認し、主張は争う。ただし、同4の(七)の別表3記載の事項については、同表の「構成員に関する規定の有無」欄に、本件各住区住民会議につき「有」とある点を争い、「代表者名」欄、「運営担当役員数(会計役員を除く。)」欄及び「会計役員数」欄の記載はいずれも不知、その余の欄の記載は認める。

4  同5は、区が請求原因3記載の住区住民会議に対し、住区会議室、老人いこいの家及び児童館の管理を委託していることは認め、その余は争う。

5  同6は、区が本件各住区住民会議に対し、別表1記載の補助事業につき補助金を交付していることは認め、その余は争う。

6  同7は、本件各住区住民会議がそれぞれ規約を有すること、原町及び大岡山西の住区住民会議以外の本件各住区住民会議は、規約の中に議決に関する規定を置いていることは認め、その余は争う。

7  同8、9は争う。

五  原告らの反論

1  地域住民の全部又は大多数を構成員とする地域団体が法人格のない社団と認められるためには、右地域団体がその地域住民の全部又は大多数の共同体として存続し、活動してきたこと、及び右地域住民が右地域団体を、自らの属する共同体として認識してきたことが必要である。しかるに、本件各住区住民会議は、市町村制施行以前の村落共同体であつた「部落」を承継したというような歴史や伝統もなく、行政によつて、住民の意思とは離れたところで作為的に作り出されたものであり、地域住民の意識の中にも定着しておらず、しかも、その自主的、独自的運営や活動を可能とするに足りる資産もない(本件各住区住民会議の活動は殆どすべて区の委託料及び補助金で賄われている。)。したがつて、本件各住区住民会議は、実体のない名称だけの存在であり、いわゆる法人格のない社団には該当しない。

2  また、法人格のない社団が成立したと判断するには、その構成員自格が明確なものでなければならないが、本件各住区住民会議の構成員に関する規約の定めをみると、規定の上では、地域内に居住する全住民を構成員としておきながら、構成員となるための入会、退会の手続、入会の意思の確認についての規定は全くない。右の地域内の全住民を構成員とする旨の規定は、構成員資格が無限定というに等しく、不明確なものであるから、このような無限定かつ不明確な構成員資格についての定めしか持たない本件各住区住民会議は、これを法人格のない社団とみることはできない。

3  被告は、住区の住民及び町合等の関係団体が当該住区の住民会議の実行委員等を推薦することによつて、右住民会議への参加意思を表明したものである旨主張する。しかしながら、ある団体の役員を推薦することと、推薦者がその団体に加盟したこととは全く別のことである。仮に、誰かがある団体の会長や理事長を推薦したとしても、その者がその団体の一員として参加したことにはならないし、その団体の維持、経営等に責任を負うことにはならない。したがつて、住民及び住民の属する町会等の関係団体が住区住民会議に参加するためには、住民及び町会等の関係団体の参加の意思決定が必要であるが、本件において、本件各住区住民会議への住民及び町会等の関係団体の参加の意思決定が行われた形跡はない。右参加の意思決定がない以上、住民及び関係団体が、本件各住区住民会議の構成員になつたものとはいえない。

六  原告らの反論に対する被告の認否

原告らの反論はすべて争う。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  請求原因1ないし5、7の事実、同6(一)のうち、烏森及び自由が丘の住区住民会議の規約中に原告ら主張のとおりの構成員に関する規定があること、同6(二)のうち、原告ら主張のような総会に関する規定を置く規約があること、総会に関する規定のうちに定足数の定めがない規約が存在すること、及び被告の主張1の事実、同4(七)のうち、本件各住区住民会議について、その設立年月日、規約の有無、目的・名称の有無、事務所の所在地、規約中の代表者の任免に関する規定の有無、昭和六〇年度定期総会開催日、総会定足数規定の有無、総会の決定事項、財産の有無が、別表3の該当欄記載のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。

二  原告らは、本件各住区住民会議は構成員が不存在又は不明確な団体であり、また、その活動の実態からみても実体のない名称だけのものであるから、このような実体のない団体に対する本件公金の支出は違法である旨主張するので(請求原因6の(一)ないし(五))、検討する。

1  まず、本件各住区住民会議成立の経緯についてみるに、成立に争いのない甲第一、第四号証、乙第一五ないし第一七号証、第六〇号証、第六一号証の一、二、第六二、第六三号証、第六七ないし第六九号証、証人久保田慶一の証言により真正な成立を認め得る乙第四一号証の二、三、証人山田創の証言により真正な成立を認め得る乙第五四号証の二ないし四、弁論の全趣旨により成立を認め得る乙第一九号証の一ないし三、第三八号証の一、二、第三九号証の一ないし三、第四〇号証の一、二、第四一号証の一、第四二号証の一ないし三、第四三、第四四号証の各一ないし四、第四五、第四六号証の各一、二、第四七号証の一ないし三、第四八、第四九号証の各一ないし五、第五〇、第五一号証の各一ないし三、第五二号証の一、二、第五三号証の一ないし三、第五四号証の一、第五五号証の一、二、右各証言、証人石田寛治の証言及び前記一の当事者間に争いのない事実を総合すると、以下の事実が認められる。

すなわち、区は、昭和四六年以降、区の基本構想に基づき総合的なまちづくりを推進するための総合計画として基本計画、生活圏域整備計画等を策定するなどして区民の生活圏域の整備を図つてきたのであるが、昭和四六年二月の旧基本計画及び昭和五二年四月の新基本計画によれば、小学校の通学区域に相当する人口八〇〇〇人から二万人までの範囲を標準として区全域を二二の区域に分けてこれを住区とし、この住区を基礎に最大半径一五〇〇メートルの面積と人口五万人から七万人までの範囲を標準として区の全域を五つの区域に分けてこれを地区とし、それぞれの生活圏域に対応した生活環境条件の整備を図ることとしている。また、区は、その基本目標である「明るい豊かな人間のまち」を実現するため、右生活圏域、とりわけ区民の基本的な生活圏である住区を単位としたコミユニテイの形成を促し、その組織化を助長することとしているが、コミユニテイ形成の主体は住民であるとして、住民による自主的、自発的なコミユニテイ形成に留意することとしている。住区を単位とした住民の自主的な組織であるコミユニテイとしての住区住民会議の結成、組織化の具体的な手順は、およそ次のとおりであり、本件各住区住民会議は、このような過程を経て設立されたものである。

(一)  まず、区が、住区住民会議の組織化について区民の理解を求めるため、住区内の町会、自治会、商店会、PTA、婦人団体、青年団体、老人クラブ、こども会等の団体及び民生委員、青少年委員、保護司等の役割を担つている住民らに幅広く働きかけ、住区住民会議についての説明会を実施した。

(二)  区による右働きかけに呼応し、その趣旨に賛同した各住区内の住民の中から世話人が選任され、それ以後は、世話人が中心となつて準備会等をつくり、住区住民会議の組織、規約、活動方針等を検討し、設立の準備を進め、その際、設立準備の一環として、住区住民会議が成立して以後すぐに活動できるように住区内の住民の中から実行委員等の候補者が推薦された。

(三)  住区住民会議の設立総会の開催日は、予めチラシ、掲示板等によつて住区内の住民に周知され、右設立総会には、概して、一〇〇名程度の住区内の住民(その主体は世話人である。)が出席し、右総会において、住区住民会議の規約、活動方針が承認され、代表者、運営担当役員、会計役員の選任が行われた。

区の二二の住区に対応する本件各住区住民会議は、いずれも、右のような過程を経た上、モデル住区として選定された東山及び大岡山東の住区住民会議が設立された昭和四九年一〇月から八雲住区住民会議が設立された昭和六〇年一二月までの間の別表3の設立年月日欄記載の各期日に次々と設立された。

以上の認定に反する証拠はない。

2  次に、本件各住区住民会議の組織等についてみるに、前掲甲第一号証、乙第六〇号証、成立に争いのない乙第六六号証、前掲山田証言により真正な成立を認め得る乙第二〇号証の一七、第三一号証の九、弁論の全趣旨により真正な成立を認め得る乙第二〇号証の一ないし一六、一八、第二七号証の二、第二九号証の一ないし二〇、第三一号証の一ないし八(第三一号証の二の原本の存在については争いがない。)、右証言、前掲久保田証言及び弁論の全趣旨並びに前記一の当事者間に争いのない事実を総合すると、以下の事実が認められる。

すなわち、本件各住区住民会議は、いずれも、それぞれの規約を有し、右各規約には、その役員として、代表者(会長、代表、委員長、)、住民会議の運営及び担当任務に当たる者(副会長、副代表又は副委員長、書記、常任委員、運営委員、実行委員、常任理事、理事等の運営担当役員)及び財産の管理、経理を司る者(会計、監事、監査等の会計役員)が規定されている。また、右各役員の選出方法、任期等も右各規約に定められており、その定めによれば、総会によつて実行委員等が指名され、その中から代表者、運営担当役員、会計役員が互選されることになつており、現に、右各規約の定めに則り、本件各住区住民会議の代表者、その他の役員が選出、改選されている。本件各住区住民会議に参画し、中心となつて事業活動を行つている右の代表者、運営担当役員、会計役員については、それぞれの住区住民会議において、役員名簿が作成され、その特定が図られている。

また、本件各住区住民会議の有する各規約には、次のとおり、設置すべき機関及びその運営に関する定めがあり、右各規約の定めに則つて総会及び役員によつて構成される運営委員会、実行委員会、理事会等の合議機関が置かれ、運営されている。

すなわち、本件各住区住民会議に設置される総会は、当該年度の事業計画及び予算等の住区住民会議の運営に関する基本的事項を審議決定する機関として右各規約に規定され、代表者の招集により少なくとも毎年一回は定例的に開催されており(もつとも、その出席者は役員が中心であつて、おおむね五〇名ないし一〇〇名程度である。)、右審議事項は、総会出席者の過半数により決定されている(実際には、ほとんど出席者による全会一致である。)。役員により構成されるその他の合議機関も、それぞれの担任事務について審議、決定する機関として右各規約に規定され、代表者の招集により、必要の都度、開催されており、そこでも審議事項は出席者の過半数により決定されている。

以上認定に反する証拠はない。

ところで、本件各住区住民会議の各規約中の構成員に関する定めをみると、前掲乙第六〇号証によれば、本件各住区住民会議のうち、東山、不動、碑及び大岡山東の住区住民会議の規約中には、その構成員についても、その総会の構成員についても明確な定めがなく、設置目的の定めの中で、当該住区内の居住者及び関係団体等が地域内のまちづくりを推進する組織として住区住民会議を設ける旨の定めがあるに過ぎないこと、中目黒、油面、五本木、月光原、向原、原町及び大岡山西の住区住民会議の規約中には、その構成員という形での明確な定めは置かれておらず、その機関である総会につき、当該住区内の住民(ただし、月光原及び向原については、当該住区内の成年に達した住民)をもつて構成する旨の定めがあること、そのほかの一一の住区住民会議の規約中には、「小学校区域内に居住する住民」(上目黒)、「住区で生活し働いている人びと」(駒場)、「小学校区域内の住民および関係諸団体等」(菅刈。同種のもの、田道、東根)、「小学校通学区域内に居住する住民および働く人々」(烏森)、「住区内に居住する者および生活の本拠を持つ者」(下目黒、中根、八雲。同種のもの鷹番)、「住区内に住所、自営の店舗またはこれに準ずる生活の本拠を持つ者」(自由ケ丘)等、その表現は異なるが、住区内の住民を構成員とする趣旨の規定があり、更に、駒場及び上目黒を除く九の住区住民会議については、総会につき、当該住区内の住民(ただし、菅刈、中根及び自由ケ丘については、当該住区内の成年に達した住民)をもつて構成する旨の規定があることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右のような、住区内の住民(そのほか、働く人々、店舗を持つ者、関係諸団体等を構成員に加えるかの如き規定もあるが、その場合でも、中心を占める者が住区内の住民であることに変わりはない。そこで以下では「住区内の住民」とのみ称する。)を住区住民会議の構成員とするかの如き規定が設けられた趣旨及びその意味内容をみると、成立に争いのない乙第六五号証、前掲石田、山田及び久保田の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、自治省行政課が、昭和四六年九月に、コミユニテイ施設の運営、管理を行う住民組織の備えるべき要件に関する一般原則を提言したが、その一つに、コミユニテイ地区のすべての住民にとつて開放的な住民組織であることの要件があること、右提言を参考にして、前記のとおり、相当数の住区住民会議の規約中に住区内の住民を構成員とする趣旨の規定が置かれたのであるが、その趣旨は、原告ら主張の如く、住区内の全住民を、その意思にかかわりなく、住民会議の組織に組み込むというのではなく、住区内の住民であれば誰でも、その希望により当該住区住民会議に参加し得ること、すなわち、参加資格を定めたものであり、住区住民会議が、住区内の全住民に対して「開かれた組織」であることを明らかにしたものであること、規約中に、総会は当該住区内の住民をもつて構成する旨を定めたものも、また、構成員についても、総会の構成員についても明確な定めのないものも、右と同様、住区住民会議の参加資格を住区内の住民とするものであること、しかして、住区内の住民は、その希望により参加した者であつても、役員とならない限り、当該住区住民会議に対しても、格別の義務を負うものではないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

3  更に、本件各住区住民会議の活動状況についてみるに、前掲甲第一号証、乙第二九号証の一ないし二〇、第六〇号証、成立に争いのない甲第二号証、乙第一二号証、第一八号証の二ないし四、第三六号証、前掲久保田証言により真正な成立を認め得る乙二一号証の四、前掲山田証言により真正な成立を認め得る乙第二二号証の一七、右証言及び前掲石田証言により成立を認め得る乙第三二号証の一〇、一一、右山田証言及び弁論の全趣旨により成立を認め得る乙第二一号証の一七、第三三ないし第三五号証、右石田証言により真正な成立を認め得る乙第三二号証の一ないし九、一二、弁論の全趣旨により成立を認め得る乙第二一号証の一ないし三、五ないし一六、一八、第二二号証の一ないし一六、一八、第二七号証の三、右各証言及び弁論の全趣旨並びに前記一の当事者間に争いのない事実を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  区は、昭和五一年一〇月一日、住区センター条例を制定し、住区におけるコミユニテイの形成に資するため、各住区に住区センターを設置することとし、昭和六一年四月一日現在、右条例に基づき、別表1記載のとおり、一三の住区センター(一五施設)が設置されている。住区センターは、住区の住民が相互に交流する場であるとともに区が住区の住民に対して行政サービスを提供する場でもある住区会議室及び区が住民に対して提供する行政サービスの一部を行う事務室である住区サービスコーナー(ただし、昭和六〇年六月一七日以降、右住区サービスコーナーは廃止され、住区におけるコミユニテイの形成の支援を行い、区長の権限に属する事務を行う事務所である住区サービス事務所へと改組された。)、談話コーナー、老人いこいの家、児童館等をもつて構成されており、区は、地方自治法二四四条の二第三項、住区センター条例五条二号、住区会議室条例一六条の規定に基づき、右住区会議室、談話コーナー、老人いこいの家、児童館等(住区サービスコーナーないし住区サービス事務所を除く。)の管理を、請求原因3記載の住区住民会議に委託し、また、地方自治法二四三条、同法施行令一五八条一項一号、会計事務規則四一条に基づき、住区会議室使用料の収納事務も、右各住区住民会議に委託している。右各住区住民会議は、それぞれ区との間で、右各委託事務につき委託契約を締結し、右契約に基づき、日曜日及び祝日の午前八時三〇分から午後一〇時まで、平日の午後四時三〇分から午後一〇時まで及び土曜日の午後〇時から午後一〇時までの間、右各住区住民会議は、その役員又は自主的に参加する住区内の住民を担当者として住区センターに赴かせ、次のような方法で、右各委託事務を処理している(ただし、自由が丘住区センターと同センター宮前分室の住区会議室は、日曜日、祝日が休館、東根住区センターの住区会議室は日曜日が休館、上目黒住区センターは、日曜日及び祝日については午前九時から、平日については午後五時から、土曜日については午後〇時三〇分から、右委託事務を処理している。)。

(1) 住区会議室の利用を承認したときは利用承認書を、住区会議室使用料を受領したときは担当者が領収書を、当該住区住民会議の代表者名で発行する。

(2) 使用料を領収したときは、区の指定した様式による払込書を当該住区住民会議の代表者名で作成して指定金融機関等に払い込み、また、収納金収入報告書を当該住区住民会議の代表者名で毎月作成し、翌月五日までに収入役に報告する。

(3) 毎日の管理事務が終了したときは、管理日誌(又は業務日誌)を担当者が作成し、管理した事務の内容について住区サービスコーナーないし住区サービス事務所の職員の確認を受ける。

(二)  次に、本件各住区住民会議は、別表1記載の各種の補助事業(ただし、※印に対応するものを除く。)を、その実行委員会、運営委員会及び理事会の事務を分担する機関として設立された各種の専門部会(大岡山西及び中根の住区住民会議では、各種の実行委員会。以下(二)においてこれも含めて「部会」、「〇〇部会」という。)が中心となつて、次のような方法で計画、実施している。

(1) 青少年育成部会、交通部会、防災部会等の部会ごとに年間の事業計画をたて、住区住民会議の事業計画案としてまとめたものを毎年定例的に開催されている総会にかける。

(2) 総会で審議、決定された事業計画を受けて、各部会の役員が中心となつてそれぞれの事業について準備し、部会ごとに実施する。

(3) 右事業の計画を周知させるため、住区ニユース、パンフレツト、チラシ等を作成、発行し、家庭への配布、学校を通じての児童への配布及び区の掲示板に掲示すること等を行つている。

(4) 実施された事業は、次の年度に開催される総会に報告される。

(三)  本件各住区住民会議が行つている前記補助事業の内容は、次のとおりである。

(1) まちづくり推進事業

地域の創意と工夫による、コミユニテイ形成を通じてのまちづくり推進を目的とする事業

(ア) コミユニテイ意識の啓発

(イ) 地域における諸活動の調整

(ウ) まちづくりを推進するための組織活動

(エ) その他まちづくり推進に関する活動

(2) 交通安全推進事業

地域の創意と工夫による、交通安全思想の普及と交通災害の防止を目的とする事業

(ア) 交通安全意識の啓発普及

(イ) 道路交通環境の点検

(ウ) 交通安全指導及び交通安全教室の開催

(エ) その他交通安全の推進に関する活動

(3) 青少年健全育成事業

地域の創意と工夫による、青少年の健全な育成を目的とする事業

(ア) 青少年の余暇指導

(イ) 社会環境の浄化

(ウ) 家庭に対する啓発普及活動

(エ) その他青少年健全育成に関する活動

(4) 社会教育推進事業

地域の創意と工夫による、住民の主体的意思形成とコミユニテイ意識の高揚を図ることを目的とする事業

(ア) 地域活動計画及び地域活動の啓発

(イ) 学習活動による相互交流と連帯意識の醸成

(ウ) 地域リーダーの育成

(エ) その他コミユニテイ推進に関する活動

(5) 子ども会育成事業

子ども会の相互交流を通じて、活動内容の充実を図り、併せて地域の子どもの健全育成機能を高めることを目的とする事業

(ア) 育成者の資質向上

(イ) ジユニアリーダーの育成

(ウ) 子どものスポーツ、レクリエーシヨン、文化、創作活動

(エ) その他子ども会育成に関する活動

(6) スポーツ振興事業

スポーツ、レクリエーシヨン活動を通じて、地域住民の健康の維持、増進を図ることを目的とする事業

(ア) 地域リーダーの育成

(イ) 地域のスポーツクラブの育成

(ウ) 初心者教室の実施

(エ) その他スポーツ振興に関する活動

(7) 防災区民組織育成事業

防災区民組織の活動内容の充実を図ることを目的とする事業

(ア) 防災訓練の実施

(イ) 防災教室等の実施

(ウ) 防災資器材等の備蓄

(エ) その他防災区民組織に関する活動

(四)  以上(一)ないし(三)のとおり、請求原因3記載の住区住民会議は、前記各委託事務を処理し、前記各委託契約に基づき、区から委託料の支払を受け、また、本件各住区住民会議は、右各補助事業を行い、交付規則に則り、区長の交付決定を経た上、区から補助金の交付を受けており、区が、昭和六〇年度において、本件各住区住民会議に対して支出した委託料、補助金の各事業ごとの明細は、別表2記載のとおりである(なお、八雲住区住民会議に対する補助金の支出は昭和六一年度からである。)。

以上の認定に反する証拠はない。

4  以上1ないし3の事実関係によれば、本件各住区住民会議は、主として当該住区内に居住する住民の有志が、区からの働きかけに呼応して、当該住区にかかわる前記3の(二)、(三)の各事業を行うことを目的として、自主的に結成した団体であり、法人格はないが、いずれも規約を有し、右規約に基づき代表者、運営担当役員、会計役員が選出されるとともに、総会及び役員により構成されるその他の合議機関が設置されており、団体としての組織を備えていること、規約上、その構成員となり得る資格を住区内の住民と定めているものが多いが、右は、住区住民会議が、住区内の住民であれば誰でも、希望によりそこに参加し得るという開かれた組織であることを担保する趣旨の定めであること、もつとも、現実に本件各住区住民会議に参画し、中心となつて事業活動を行つている者は、右代表者、運営担当役員、会計役員及びこれら役員によつて構成される合議機関であり、これら役員については、それぞれの住区住民会議において、役員名簿等を作成し、その特定が図られていること、総会その他の合議機関においては、多数決の原則が行われ、右の役員の変更にかかわらず団体が同一性を保つて存続することが明らかである。右の諸点に鑑みると、本件各住区住民会議は、法人格のないことは明らかであるが、住区内の住民全員に開かれた組織であり、法的にみた構成員を、その意思により参加した住区内の住民と考えるにせよ、その役員のみと考えるにせよ、実体として、いわゆる法人格のない社団又はそれに等しいと評価し得る団体とみるのが相当であり、本件各住区住民会議が実体のない名称だけの団体であることを前提とする原告らの主張は、到底採用することができない。

なお、原告らは、被告が請求原因3記載の住区住民会議に対して委託した事業、すなわち、住区会議室、談話コーナー等の区の施設の管理、使用料の収納その他の事務は、実際には、区の職員によつて行われている旨主張するが(請求原因6の(四))、前記3の(一)のとおり、右委託事務については、右各住区住民会議が、その役員等担当者を住区センターに赴かせ、主体的に右事務を処理していることが明らかであるから、右主張は採用できない。

三  原告らは、別表1記載の公の施設の管理委託は、公共団体又は公共的団体に対してしなければならない(地方自治法二四四条の二第三項)が、本件各住区住民会議はこれに該当しないので、右施設の管理委託は違法である旨主張する(請求原因6の(六))。

しかしながら、同法二四四条の二第三項所定の公共的団体とは、公共的な活動を営む団体といい得るものであれば足り、法人であると否とは問わないものと解すべきところ、本件各住区住民会議がまちづくり推進事業、交通安全推進事業、青少年健全育成事業等といつた公共的な活動を行つていること、法人格のない社団又はそれに等しいと評価し得る団体であることは、前記二の3の(二)、(三)及び4のとおりであるから、本件各住区住民会議は右公共的団体に該当するものと認めるのが相当であり、原告らの右主張は採用し難い。

四  以上二及び三によれば、本件各住区住民会議に対する本件公金の支出が違法である旨の原告らの主張はすべて理由がなく、また、他に、本件公金支出を違法とする根拠は見いだし難い。

五  よつて、原告らの本訴請求は、その理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木康之 高橋利文 青野洋士)

別表1~3〈省略〉

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